意識改革と再建のキングダム 【後編|次なる野心と展望】|株式会社物語コーポレーション 代表取締役 専務執行役員 岡田雅道氏
外食産業で働く人たちの夢「立身出世」の実現者。アルバイトから正社員に、外食産業へ身を投じ、業態開発の成功と挫折、再生を積み重ね、国内608店舗、グループ売上高(以下、「売上高」)1085億円(2022年6月期)の株式会社物語コーポレーション代表取締役専務執行役員に駆け昇る。また、同社アジア地域統括の100% 子会社 Storyteller 株式会社では代表取締役社⾧をも兼任。国内 290店舗を突破した「焼肉きんぐ」、そして物語上海での苦節と成功の経験を引き下げ、日式焼肉ブランド「焼肉専門店肉源 焼肉王」は中国での覇権を狙う。従業員の意識改革を得意とし、業界屈指の“再建家として”突き進む岡田雅道専務の情熱のバックグラウンド、そして快進撃が続く物語コーポレーションの焼肉業界における展望に迫る!
意識改革と再建のキングダム【後編】では 物語コーポレーションの中興の祖ともいえる岡田雅道専務が、次に選んだ新境地にチャレンジする姿をフィーチャー。孤軍奮闘と絶望の淵で見出したものとは?そしてポストコロナで見据える業界の未来とは何か?BEEF CREATOR編集部と『ビーフキングダム-王者の視点-』ナビゲーター永尾まりやがクローズアップします。
物語コーポレーション岡田専務が外食産業へ身を寄せたきっかけと立身出世に迫る
中国上海、孤独と絶望の淵で見出した新境地とは!?
大赤字に転落していた豊橋の高級和食店「魚貝三昧 げん屋」を13年連続黒字店舗へと再建し、担当していた1店舗を再建しようと考えた事がきっかけで、その案が自身初の業態企画へと発展した「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」は当時10店舗目(2022年11月時点 90店舗)の多店舗展開に大成功。そんな岡田専務へ、本社は更なる期待を寄せる。
―岡田専務:あるときに、上司が私のところに来て、岡田さん「丸源ラーメン」の業績改善に力を貸して欲しいと相談されました。
―永尾まりや:来ました。再建の依頼ですね。
―岡田専務:はい、現在だと180店舗あるラーメン店です。
―永尾まりや:180店舗!
―岡田専務:当時だと100店舗弱でしたが、会社としては紛れもない主力事業のひとつです。
当時の「丸源ラーメン」は既存店売上高が5年連続前年割れという、重症を負っていた。しかも店舗単位は100店舗。通常だと、滅入ってしまい、手を施し難い状態である。しかし、岡田専務はこう語る。
―岡田専務:念の為、誤解のないようお伝えしておきますね。立身出世とか、再建家とかの言葉が並ぶと、格好良く聞こえるかもしれませんが、実際は泥臭い「現場」での作業や課題解決がメイン。人手不足の時は今でも洗い場に入りますし、調理も担当する。飲食店の再建とはそういう仕事だとご理解いただけると嬉しいです。
―永尾まりや:飲食店は徹底して、「現場」が大切なのですね。
―岡田専務:はい、そして業績の悪い店舗で私が唱える事とは…
―永尾まりや:ダメな店あるある…ですか?
―岡田専務:そのとおり。「丸源」では提供しているメニューに対して、従業員が味に疑問をもちながら料理を提供していました。さすがに、主力の熟成醤油ラーメン「肉そば」を批判する人はいなかったのですが、味噌ラーメンや塩ラーメンなどの準主役メニューについては「あまり好きではない」と批判を口に出す人もいました。「ダメな店あるある」の出現ですよね。自分が味に疑問を思っている料理を出す店の従業員が明るく、楽しく、自信を持つ振る舞いなんてできない。だから、改善が必要と思われていたメニューを全て、徹底的に改革しました。実は一番業績の悪い店を私に預けてもらって、一緒に「現場」に入って仕事をして改善の糸口も探しました。
―永尾まりや:それをすると、ダメな店あるあるは…
―岡田専務:格段に減りました。全ての味が以前よりおいしくなりましたし、お客様の笑顔をみて、従業員は誇りを持ち自信に溢れるようになりました。私が再建の仕事が好きだと思うひとつとして、従業員さんのビフォーアフターを実感できるということがあります。「げん屋」同様、「丸源」も従業員さんが自信を持つ事で強くなりました。
あと、「丸源」の再建でひとつ勉強になったのは、店舗側の再建もありましたが、本部側の仕事に対する意識改革と再建ということも挙げられます。料理を提供する「現場」でお客様の笑顔を想像できるメニュー開発やサービス提供を本部側が真剣に考え抜いているのか?売上をあげているのは本部ではなく「現場」なのだと。ここに一石を投じられたことが会社にとっても、私にとっても大きかったです。
そして、2015年。岡田専務にキャリア最大の転機が訪れる。海外事業への挑戦。赴任先は中国上海。
しかも、会社から渡されたミッションは既に先行していた中国出店事業の“再建”である。
―岡田専務:ありがたいことに、日本で沢山の経験を積ませていただいて、徐々に自信もついてきた。なので、中国という場所で、トップをはって仕事をできるという環境に魅力を感じて、身を投じました。
―永尾まりや:実際に赴任された時の実感は?
―岡田専務:現地でPL(損益計算書)をみたら年間約5億円の赤字。想像していた10倍以上の金額でした。目を伏せて、即帰国したいと思ったくらいです。
日本であれば、仲間もいるし、言葉も通じる。だけど、中国には仲間もいなければ、言葉も通じない。しかも、想像の10倍以上の赤字かつ、会社からは不採算店舗を業態変更させながら、黒字に向けて攻めたいというレベルの高いミッションを受けていた。孤独感と絶望感でどうしたら良いかわからない。人生最大の苦境となりました。
それでも、赤字が流れる時間は待ってくれない。前に進むしか選択肢はないのだ。手始めにオフィスを半分に縮小し、細々なものを含めできうる限りのコストカットを実行し、再建家として一番やりたくない人材のリストラも仕方なくおこなった。まずは出血を最小限に留めて、踏ん張れる体制を整えるためである。しかし、出血を少なくしても、守るだけでは黒字への転換はおろか、赤字解消にすらならない。商売を良くする。攻めに転じるしか方法はなかった。
―岡田専務:従来のお店を転換し、新業態をつくって、攻めるという決意を固めました。しかし、まだ中国不採算店舗への不信感を払拭できていない故に新規予算の承認が本社から出ない。 私たちが展開する規模のお店の広さだと平均7000〜8000万円くらいの立ち上げコストがかかるのですが、どうやって捻出しても1500万円が限界でした。既存の機材を使えるオペレーションを考え、装飾もポイントを絞り、必要最低限の什器だけを導入。そうして出来たお店が「北海道蟹の岡田屋総本店」です。
―永尾まりや:お聞きするのも緊張してしまうのですが、結果はいかがでしたでしょうか?
―岡田専務:月商800万円の店舗が、月商4000万円の店舗へと変わりしました。
大サクセスストーリーともいえるこの案件に費やした期間はたったの半年間。しかし、この180日は血の滲むようなコストカットの努力と、仲間がいない、自分の意図を伝えるためのコミュニケーションができないという苦悩の1日を180回繰り返すという生活なのだ。想像を絶する長い時間だったことだろう。
―永尾まりや:人生最大の戦い。中国上海で岡田専務が手にした成果はどんなものでしたか?
―岡田専務:「国と人とは違う」ということを身に染みて感じとれたこと。それまでは、国のイメージとそこで暮らす人のイメージを同じように捉えていました。アメリカで住んでいる人はこんな方なのだろう、中国に住んでいる人はこんな方なのだろうというイメージです。これは大きな間違いでした。人とは国のイメージではなく、ひとりひとりの人として向き合うべき。当たり前の事ですが、それを体感し、教わりました。現地にいると自分が無力であることを痛感します。人を頼るしかない。だからしっかりと向き合って、信頼して、お任せして、一緒に前に進んでいく。この価値観の変化が中国上海で私が手にした最大の成果です。
コロナとの戦いを振り返って
―永尾まりや:物語コーポレーション様、岡田専務にとって 新型コロナウィルスはどのような影響をもたらしたのでしょう?
―岡田専務:話の流れから言いますと、中国事業では従来売上に対して20%ほどのマイナス影響を受けました。しかし、他店撤退による優良物件に空きが出るということもあり、攻めの姿勢で臨んできました。国内に関しましては、確かに営業時間の短縮などにより売上への影響はありましたが、こちらも他店撤退による優良物件の確保という点では出店ペースを前倒しするという好機と捉えて経営を進めてきました。
―永尾まりや:コロナ前、コロナ後で変化したことはありますか?
―岡田専務:たくさんありますが、国内視点のトピックスとして2つ。ひとつめは、コロナ後も深夜の人の出入りは戻らず少なくなっているということ。ここに関しては開店時間と閉店時間を前倒しするというスタイルに切り替えました。結果、業績は堅調に推移しています。ふたつめは、今まで実施していなかったデリバリーに対応したこと。一気に導入したことで、業態ごとの向き不向きのデータ比較ができたので、こちらも知見が蓄積できて良かったです。
新たな日本のキラーコンテンツとして勝負できる「焼肉業界」の未来展望とは!?
―永尾まりや:『ビーフキングダム-王者の視点-』は牛肉業界の発展に貢献するためのビジネスメディアBEEF CREATORの目玉企画です。毎回 各分野のキングダムから、牛肉という観点で今後の展望をお聞きしていきたいと考えているのですが、岡田専務が見据える王者の視点とはどのようなものでしょうか?
―岡田専務:同業界には素晴らしい企業がたくさん存在するので、できれば王者という表現は避けていただきたいのです・・その上で、当社は国内では「焼肉きんぐ」、海外では「焼肉王」という焼肉ブランドを展開しているので、折角の機会ですので、僭越ながら私の感覚で良ければコメントさせていただきたいと思います。
コロナの少し前からですが、焼肉の業態が、従来の概念を変える流れになってきているなと感じていました。
これまでの焼肉屋さんの考え方だと高級店を経営するためには単純に高級な和牛を仕入れて提供するということが通例でした。しかし、新しい焼肉屋さんの考え方は料理性と空間を含めたサービスの向上という勝負で単価アップに挑まれている。
これは本当に凄いといいますか、結果 焼肉業界に寄与していただいているなと感じる点は、新しい概念の焼肉店は主に都心のど真ん中、東京だと西麻布や六本木、恵比寿などで展開していて、お越しになられる方も著名人の方や、経営者の方などが多い。そしてその方達はみんな発信力のある方ばかりなので、その焼肉店に行くことが難しい全国にお住まいの方々もSNSやネットでみて「こんな高級な焼肉のスタイルがあるのか!食べてみたいな!」という情報の到達という現象が起こっているということです。
つまり、同じ焼肉業界というピラミッド構造の縦軸の高さを、新しい概念の焼肉屋さんが引き上げてくださっていることで、業界の単純な価格破壊をおこさない現象にまで繋げてくださっているのではと感じています。なので、実はこの新しい概念の焼肉業態は業界にとって凄い出来事だなという眼で私は追っています。
自社の焼肉事業の戦略で申しますと、これまで郊外型に特化していたものを都市型/駅前立地も視野に入れる。あとは海外展開を伸ばしていくという2軸です。
焼肉業界の展望というわけではないですが、これからは、焼肉店はもっともっと細分化されていくのではと感じています。すでに出てきている牛タン専門店、カルビ専門店、ハラミ専門店、さらにはもっと異なる業態が出てくるのでは?というイメージです。一時期のラーメン店の進化に少し似ていますよね。豚骨の専門店、味噌の専門店、つけ麺の専門店と、細分化しながらもそのカテゴリーの価値全体は上がっていく。
焼肉はラーメンよりも、料理のバリエーションも価格のバリエーションも幅広いですから、進化の仕方が面白い。日本の人口が少なくなっていくという中でも、焼肉は今後も元気であり続けるとされる有望な分野。ラーメンがそうであったように、きっと焼肉も日本食のキラーコンテンツとして十分期待できると感じています。
意識改革と再生のキングダム【後編|次なる野心と展望】 完
ナビゲーター/永尾まりや 取材/渡辺恵伶奈(Beef CREATOR 編集部) 取材協力/工藤実衣菜(Beef CREATOR 編集部|MIIand) 文章・全体構成/毛利努(MORRIS STRATEGY & DESIGN CONSULTS,LLC.)