日本が誇る観光立県“沖縄”に独自のステーキ文化を築き、醸成させた第一人者。時代の流れに対応し、いまなお進化を遂げる「88」ブランド快進撃の秘訣とは?|ステーキハウス88
「ビーフクリエイター図鑑」とは、牛肉の価値を高めるためのブランディングに熱意を注ぐ外食産業、流通産業の各業種業態の企業や人物(=ビーフクリエイター)を取材し、その考え方を業界内の方々へ共有することで、牛肉のさらなる価値向上の底上げを共有するためのノンフィクションコンテンツです。
今回は、沖縄でアメリカ統治下時代から歴史を刻み、赤身肉にこだわった「本場アメリカンタイプのステーキ」を40年以上提供し続けているステーキハウス88グループを展開する、株式会社テクノクリエイト 代表取締役 金城康次 様を取材させていただきました。
沖縄本土返還前、昭和30年(1955年)に開業された「CLUB88(クラブエイリーエイ)」から全ての物語が始まる
1955年に開業した「CLUB88」。当時沖縄に派遣されていた米軍の将校や若い軍人の間で人気を博していた、アメリカニューヨーク州にある「CABARET88(キャバレーエイティーエイト)」の様に、母国から離れた沖縄で米軍達に愛される場所をつくりたいという思いから開業。米軍統治下にあった沖縄で「CLUB88」は「Aサイン」を持つ飲食店として営業されていました。「Aサイン」とは、沖縄本土復帰前において、米軍が発行した営業許可証。「Aサイン」の「A」は「Approved(許可済み)」の頭文字であり、衛生面など厳しい審査に合格した店のみに発行されたクオリティの高さを証明する唯一無二の証。1972年の沖縄返還直前まで「Aサイン」は使用され続け、1978年に「CLUB88」は「ステーキハウス88」として生まれ変わりました。この「Aサイン」時代からのルーツを受け継ぐ「ステーキハウス88」には、一体どんな歴史とこだわりが詰まっているのでしょうか。
―編集部:1978年に「CLUB88」から「ステーキハウス88」へ生まれ変わってスタートされた後、1番大きな変化はどのようなことだったのでしょうか。
金城代表:やはり、1番の大きな変化は来店される「お客様」の変化です。「CLUB88」時代は、主に米軍関係の方や沖縄県民のお客様がほとんどでしたが、1978年に「ステーキハウス88」として生まれ変わってからは徐々に観光客のお客様もご来店されるようになりました。当初は脂身の少ない赤身肉を使用した「テンダーロインステーキ」をメインとして提供してきましたが、時代の流れやお客様の変化に合わせて、脂身のあるサーロインなどのお肉を使用したメニューも取り入れる様になりました。
観光客のお客様が増えた背景には、1972年に沖縄が日本に返還されたことが深く関係しており、その年の前後にはステーキ店の開業が相次ぎました。これまでとは一変、パスポートなしで沖縄へ来られる様になった為、観光客の方が急増。高度経済成長で、日本人の生活がどんどん豊かになっていく中、大手航空会社や大手旅行代理店が沖縄に対する大規模なキャンペーンを展開したことも拍車をかけ、沖縄旅行は日本人の憧れの一大観光産業へと発展しました。その中で育った物産、ご当地名物のひとつが沖縄流のステーキです。当時、日本本土では「牛肉」=「高い肉」というイメージがありましたが、沖縄県は「復帰特別措置」で輸入牛肉の関税が本土よりも低く抑えられたので、比較的安価で牛肉を食べることができました。その為、日本人観光客の方にとって、沖縄県では“高品質の牛肉がリーズナブルに食べられる”イメージが定着しましたが、ステーキハウス88の魅力である本場アメリカンタイプの赤身肉ステーキが日本人観光客のお客様に受け入れられるのか、とても悩みました。
編集部:急激な変化や、相次いで開業された競合他店との差別化は、どの様に対応されたのでしょうか?
金城代表:いかに「美味しく」「満足感たっぷり」と「リーズナブル」に提供できるかを軸に、「赤身肉」にフォーカスを当てて対応していきました。口溶けや、やわらかさを求める日本人とは異なり、肉の味わいや噛み応えを重視する米国人には、赤身肉が好まれてきました。アメリカの文化が根付く沖縄県では「赤身肉」を好んで食べる傾向があり、観光客の方にも「赤身肉」の美味しさを存分に味わっていただけるよう調理法やオリジナルのソースを考案していきました。
赤身肉の旨みを最大限に引き出す”オリジナリティ”
編集部:特に注力されている「赤身肉」ですが、こだわりを教えていただけますでしょうか?
金城代表:使用する部位や輸入先にこだわって赤身肉を厳選しています。赤身肉はアルゼンチン産が美味しいとよく聞くのですが、日本ではアルゼンチンビーフの輸入が制限されていますので、同じパンパ(アルゼンチンの首都ブエノス・アイレスを中心に広がる平原の名称)の気候で育つウルグアイビーフを主に使用しています。2019年2月にウルグアイ産生鮮牛肉の輸入が解禁された事を受け、ステーキハウス88では、沖縄県内で1番目、日本全国でも2番目という早さで「ウルグアイビーフ」の輸入を開始いたしました。
我々が先陣を切って輸入することができたのは、ウルグアイビーフの輸入が解禁される前にウルグアイ大使館で開催された「ウルグアイビーフプロモーションイベント」に招待していただいた事がきっかけでした。イベントで試食をさせていただき初めてウルグアイビーフをいただいたのですが、衝撃的な感動を受けたことを今でも覚えています。ウルグアイビーフの赤身は肉本来のうま味を強く感じることができ、ジュージーさを感じることのできる程よい食べ応えのある食感で、まさに私の求めていた理想の赤身肉であった事から即導入に至りました。
金城代表:ウルグアイは国土の約88%が草原という、肉牛を育てるのに最適な環境です。南半球では南下するほど牧草(ライグラス)の栄養価が高くなる為、普通に育てているだけでも赤身肉のうま味が強くなると言われています。また、飼育するほとんどが、アンガスなど英国系の肉専用種である事から、お店ではテンダーロインや、フラップミート(かいのみ)を主体に、少し脂身のあるショートグレイン(通常の牧草肥育後、100~120日穀物飼料を与えて育てた牛)のサーロインなどを使用しています。
美味しく召し上がっていただくために保管方法にもこだわり、セントラルキッチンでカットした後、1枚ずつ真空パックでチルド保存しています。
編集部:おすすめの焼き加減や食べ方はございますか?
金城代表:おすすめの焼き加減は「ミディアム」です。お客様の好みやメニューにもよりますが、ミディアムが1番赤身肉の旨みを味わっていただけると思います。食べ方としましては、各テーブルにご用意しているオリジナルソースや調味料を、お客様の好みに合わせてかけて様々なお味を楽しみながら召し上がっていただければと思います。
編集部:オリジナルソースはどういったものがあるのでしょうか?
金城代表:1つ目は「にんにくじょうゆ 和風うまみだれ」です。醤油をベースに果実や野菜の甘みでまろやかに仕上げ、沖縄県産のにんにくを100%使用しているこちらのソースはとても人気があり、店頭での販売も行っております。召し上がられ気に入ってくださったお客様がお土産としてご購入されたり、ソースのご購入のみを目的にご来店されるお客様もいたりするほど、大変ご好評を頂いております。
2つ目は「S1ソース(Steak No.1ソース)」です。このソースを作るきっかけは、お客様からの「辛辣なご意見」からでした。沖縄県内ほぼ全てのステーキハウスで提供している沖縄県民には馴染み深いイギリス産の「A1ソース」がありますが、こちらは酸味が強くクセがある為、観光客のお客様には好みが分かれてしまう事が難点でした。多くの沖縄県民が愛してやまないA1ソースですが、この酸っぱさを「お肉が傷んでいる」と感じたお客様に頂いたご意見から、酸味の中にも甘味と、深い味わいのあるソースを作ろうと開発されたのが「S1ソース(Steak No.1ソース)」です。
編集部:金城社長のおすすめのソースはございますか?
金城代表:私のおすすめは赤身肉とも相性が良い「にんにくじょうゆ和風うまみだれ」ですが、最近は「S1ソース(Steak No.1ソース)」を好むお客様も増えております。
お客様ご自身でお好きなソース、岩塩や胡椒などの調味料をかけて“自由”にステーキを召し上がっていただける点も当店の特徴ですので、ぜひ色々と試しながらお食事を楽しんでいただけたらと思います。
時代と共に移り変わるものと、変わらぬ88ポリシー
編集部:メニュー数の多さが印象的なのですが、なかでも人気のメニューを教えていただけますか?
金城代表:現在当店では、ステーキだけでも20種類以上のメニューを取り揃えています。中でも1番人気があるのは、「テンダーロインステーキ」です。沖縄ステーキの花形でもある「テンダーロインステーキ」はヒレ肉の事を指し、オープン当初から「本場アメリカンタイプ」のステーキとして不動の人気を誇っています。米国でヒレ肉を「テンダーロイン」と呼んでいた事から沖縄でもその名で広まり、アメリカの文化を強く受け継いだ沖縄らしい結果だと思います。
2番目に人気があるのは「特上サーロインステーキ」です。背中の中央にある部位のサーロインは、動かす機会の少ない部位で筋が入りにくくきめ細かいサシが特徴的です。柔らかくジューシーな食感で甘みもある為、日本人の好みに合うのだと思います。
金城代表:時代と共に、お客様の多様性に合わせながら少し脂身のあるロースやランプなども取り入れ、オープン当初と比較するとステーキメニューは約5倍にまで増えました。メニュー数が増え、時代の流れによってお客様の趣向も変わっていく中「赤身肉」にフォーカスを当てるという部分はオープン当初から変わらずこだわり続けています。
編集部:ステーキハウスが多く立ち並ぶ沖縄ですが、「ステーキハウス88」様ならではの魅力をお聞かせください。
金城代表:「ステーキハウス88」の魅力は、厳選したお肉を美味しく、安定価格で提供し、シーンを問わず気軽にご利用していただける部分です。これは、我々が最も意識している部分であり、オープン当初から40年以上変わらない大事なポリシーです。お客様の層として、老若男女問わず多くの方にご来店いただいております。幼い頃はご家族でファミリーレストランのような感覚で、育ち盛りの学生の方にはご友人と気軽に満足感たっぷりのステーキを、社会人の方には沖縄文化である「飲み会後の締めステーキ」として、様々なシーンでご利用いただいております。店内は回転率を上げる事よりも、お客様が安心して過ごせる雰囲気作りを大切にし、様々なお客様のニーズに応えられる様、サイドメニューやドリンクメニューも豊富に取り揃えている部分も魅力の1つだと考えております。
編集部:40年以上も歴史を刻み続ける「ステーキハウス88」様ですが、今後の目標についてお聞かせください。
金城代表:コロナウイルスの蔓延も落ち着いてきたので、今後は「Aサイン」を受け継ぐ辻本店から日本全国へ、そして世界へと「ステーキハウス88」を展開し、本場アメリカンスタイルの赤身肉ステーキを多くの方に楽しんでいただく事が目標です。しかし、急拡大し過ぎない事も意識しています。2023年現在も、沖縄県に22店舗、九州に2店舗展開しておりますが1店舗1店舗、何十年も続くお店を作っていくことを意識しながら展開しています。店舗数を一気に拡大してしまうと、基盤がしっかりしている会社でも体制を維持しづらくなると考えている為、綿密に計画を立て、チームを組んで慎重に店舗展開を図っております。
金城代表:ステーキハウス88を展開する一方で、2016年からは、「ステーキハウス88」から派生した「ステーキハウス88Jr.」を展開しております。こちらは地元沖縄にフォーカスし注文はスマートフォンやタッチパネルで操作するなどITを取り入れて人件費を削減。その分のコストをお肉に充て、よりリーズナブルにクオリティの高いお肉をお楽しみいただけるようにしております。
コロナ禍において、観光客が減り売上が落ち込んだ際も、地元向けの業態である「ステーキハウス88Jr.」は1000円ステーキの割に質が良いと学生や家族連れの方に人気があり、コロナ禍でリタイアするお店が増える中、新店舗の拡大ができました。我々は、長年の経験から自社の強みと弱みをしっかりと把握しています。お客様へ総合満足度の高い美味しい料理を提供できる様、引き続き企業努力を続け、今あるお店をより良い店舗にしていくことが、多くのお客様に本場アメリカンスタイルの赤身肉ステーキを楽しんでいただける事につながると考えております。
ステーキハウス88 辻本店
所在地:沖縄県那覇市辻2丁目8番21号
電話番号:098-862-3553
メニュー(辻本店):https://s88.co.jp/images/tsuji_menu.pdf
公式HP:https://s88.co.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/88tsuji88
公式Instagram:https://www.instagram.com/steakhouse88/?hl=ja
文章/小関咲穂(Beef CREATOR 編集部) 取材/渡辺恵伶奈(Beef CREATOR 編集部)構成/毛利努(MORRIS STRATEGY & DESIGN CONSULTS,LLC.)